
先日、我が家では大規模なリフォーム工事を行いました。
昨今の猛暑の中、長期間にわたって丁寧な作業を続けてくださった職人の皆さんには、今でも心から感謝しています。仕上がりにも非常に満足しており、工事そのものについては何の不満もなかったことを、はじめに言っておきます。
しかし、その満足感は、工事完了後に発覚したある出来事によって、大きく揺らぐことになりました。
SNS時代だからこそ起こり得た今回の出来事について、実際に経験した当事者として振り返ってみたいと思います。
ことの発端は、何気なく開いたリフォーム会社のInstagram

「そういえば、施工事例を掲載すると言っていたけれど、どうなったのだろう」
そんな軽い気持ちでアカウントを開きました。最初に目に飛び込んできたのは、見覚えのある風景でした。
リフォーム後の我が家です。
いわゆるルームツアー形式で、自宅前の道路から玄関、そして各部屋までが、動画で継ぎ目なく映されていました。
正直なところ、戸惑いはありましたが、この段階ではまだ怒りよりも困惑の方が大きかったように思います。
なぜなら、契約時、私は施工事例としてビフォーアフター写真を掲載することについては了承していたからです。
(もっとも、打ち合わせの流れの中で「掲載しても大丈夫ですか?」と軽く確認された程度でしたが。)
そのため、外観や周辺道路が映っている点については気になったものの、屋内の紹介については、ある程度仕方のない部分もあるのかもしれないと考えました。
そこで私は会社へ連絡し、少なくとも道路を含む外観部分については削除してほしいとお願いしました。ところが、その後、他の投稿を確認しているうちに、再び見覚えのある動画を見つけました。
そして、そこで事態の認識が大きく変わりました。今度はリフォーム後の完成した家ではありませんでした。
家族が何十年も暮らしてきた、リフォーム前の家の様子だったのです。

その動画もリフォーム後の動画と同じように、ルームツアー形式で、家の外観から始まり、処分予定だった家具や生活用品が残された部屋を一つひとつ映して回っているものでした。
それぞれの部屋について、音声やテロップによる説明も付いており、その中にはリフォームの内容とは直接関係のない、私的な情報も含まれていました。
その映像を見た瞬間、何が起きているのかすぐには理解できませんでした。
「え? なぜ?」
心臓バクバク、手には汗。
しばらく意味が分からず、画面を見つめていましたが、無意識にマウスを動かし、投稿をたどっていくと、さらに別の動画が見つかりました。
これも。
これも。
確認できただけでも5本以上ありました。
掲載前の確認連絡はありませんでした。
公開範囲や媒体についての具体的な説明もありません。
公開後に掲載の連絡を受けることもなく、私自身が偶然発見するまで、家族が長年暮らしてきた実家の様子は、そのままSNS上で公開され続けていました。
晒された家族の記憶

特にショックだったのは、亡父が長年過ごした部屋まで動画の中で紹介されていたことです。
父は晩年、足が不自由になり、介護を受けながら生活していました。
他人を家に上げることをあまり好まず、ヘルパーの利用さえ断ることがあったほどです。
その部屋には当時使用していた介護用品も残されており、それらも映像の中に映り込んでいました。父がいなくなったため、それらは処分を予定していた物でした。
しかし、それは家族にとって不要になったというだけであって、不特定多数に向けて公開されることを前提としたものではありません。
少なくとも私には、そのように扱われることに強い抵抗がありました。
私は解体前の記録として、家族の思い出が詰まった家の内部を自分でも動画に残していました。
しかし、それですら落ち着くまでは見返すことができませんでした。
思い出が多すぎて、まだそれらを処分したことに、気持ちの整理がついていなかったからです。
それなのに、何の前触れもなく、その懐かしい光景がSNS上の動画として突然目の前に現れた。
動画を見た瞬間、当時の記憶が一気によみがえりました。
そして、父がもしこの状況を知ったらどう思っただろうかと考えると、情けなさと申し訳なさで涙があふれました。
私たちが考えたことなのに、どうして?

公開されていたのは居室だけではありませんでした。
リフォーム後も使用する予定だった物品を、鍵をかけて保管していたガレージまでわざわざ開けられ、その内部も撮影されていました。
私としては、不用品の処分や工事のために立ち入りが必要になることは理解していましたが、保管スペースまで含めて撮影・公開されるとは考えていませんでした。
さらに、削除を依頼した際、まだ公開前だった動画も確認しました。
幸い、その動画は公開前に気がついたため、実際にSNSへ投稿されることはありませんでした。
しかし、その内容を見て、私は別の意味でさらに愕然としました。
動画の中では、
「この照明は人感センサーにしました」
「この設備は色を合わせてこうしました」
「大きな食洗機を入れました」
といった細かな説明が繰り返されていました。
もちろん、施工そのものは事業者の技術によって実現されたものです。
しかし、間取りや設備、コンセントの位置、そしてリフォーム後に搬入する家具との調和に至るまで、そのほとんどは施主側で考えたものです。
実際の生活を想定し、家族全員が納得できる形になるよう、何か月もかけて検討を重ね、一つひとつ、選んだのは、まぎれもなく施主である私たちです。
この動画がもし公開されていたら、あたかも事業者側が全体を企画・提案したかのような印象を受けたでしょう。もちろん動画には時間的な制約があり、すべてを説明できないことは理解しています。
それでも、自分たちが長い時間をかけて考え抜いた住まいが、いつの間にか別の誰かの「実績」や「成功事例」として語られようとしていたことに、悔しさが込み上げました。
「いいね」が少なかったら問題は小さい?

公開されていた動画は、Instagramに加え、YouTube、TikTok、Facebookなど複数のプラットフォームにも、同時に掲載されていました。(いずれも現在は削除されています)
そのため、当時の反応として確認できるのは、主にInstagram上のキャプチャに残っていた「いいね数」に限られます。
一番多い「いいね数」はが10件程度でしたが、今までのSNS運用経験から、いいね数の何十倍もの閲覧が発生することは珍しくありませんでした。いいねが少なくても、数千回単位で閲覧されるケースは普通にあります。
SNSでは反応する人よりも、何も反応せず閲覧する人の方が圧倒的に多いのです。
「いいねが少ない=見られていない」
ではありません。
私にとって問題だったのは数字そのものではなく、10ヶ月以上にわたり、自宅内部の情報が第三者へ公開されていたという事実でした。
感情は抜きにして、防犯やプライバシーの観点だけで考えても、これは決して軽視できる話ではありませんでした。
「施工事例」と「生活情報の公開」は全く別の話

今回、私が最も強く違和感を覚えたのは、「施工事例」という言葉が非常に都合よく拡大解釈されていたことです。
リフォーム工事を依頼する際、施主は事業者に対してさまざまな情報を開示します。
家族構成。
健康上の事情。
予算などの金銭的な情報。
介護の状況。
生活動線。
将来の住まい方。
どの部屋を誰が使うのか。
それらはすべて工事を円滑に進めるために必要だから共有するのであって、SNSの視聴者に向けて公開するために話しているわけではありません。
私たちも打ち合わせの中で、
「母が階段で怪我をしたこと」
「将来的な家族の居住予定」
「防犯面を重視していること」
などを率直に伝えていました。
しかし、それらの情報は本来、工事関係者だけが知り得るべき情報です。
内輪の話を、突然不特定多数に向けて公開されていたら、多くの人は戸惑い、公開した人の常識を疑うのではないでしょうか。それと同じです。
また、工事や不用品の処分のため、鍵も預けていました。
それはあくまでも作業のためであり、宣伝動画を制作したりするために預けたわけではありません。
たとえ処分予定の物や解体前の建物であっても、私たちや家族の歴史が詰まった、大切なものであることに変わりはないからです。
本当に怖いのは「家が映ったこと」ではない

今回の件について話すと、
「家の写真くらい普通では?」
と思われるかもしれません。実際、施工事例として写真や施主の許可を得た上で紹介されているケースも見られました。
また、今回のリフォームは実家の整理、いわゆる「実家じまい」的なものであったため、感情的な意味合いも強いものでした。
しかし、私が問題視しているのは動画そのものだけではなく、
- 外観
- 周辺環境
- 玄関
- 室内
- 家具配置
- 生活動線
- 家族構成
これらの情報が一つの動画の中で結び付けられていたことです。
例えるなら、
「住所が書かれた免許証」と「自宅の鍵」を同時に落とすようなものです。
個別に見れば大した情報ではなくても、組み合わせることで全く別の価値を持ってしまいます。
現代のSNSでは、一つひとつの情報よりも、複数の情報が結び付くことで生まれるリスクの方がはるかに大きいのです。
トラブル対応で大切だと感じたこと

後から思えば、利用範囲についてもっと確認しておくべきだったとも思います。
ただ、それは相手を信頼していたからこそ、怠ってしまった部分でもあります。
信頼することと、確認をすることは分けて考えなければいけない、むしろ、後々の認識違いを防ぐためには、その両方が必要だったのだと学びました。
施工事例への掲載を依頼された場合は、
・写真なのか動画なのか
・どこまで撮影されるのか
・どの媒体に掲載されるのか
・公開前に確認できるのか
・削除を依頼した場合はどうなるのか
といった点を、事前に確認しておくことが大切です。
私は今回の件を通じて、「施工事例として掲載する」という一言だけでは、その範囲を十分に理解できないことがあると実感しました。
おわりに

SNSでの情報発信が当たり前になった現在、住宅の施工事例は企業にとって重要なマーケティング資産になっています。
しかし、それが施主のプライバシーとどのように両立されるべきかについては、もっと丁寧に扱われるべきだと感じました。
SNSやインターネットは便利な反面、その進化の速度があまりにも速く、利用する側も利用される側も、その利便性の裏にあるリスクや影響を十分に整理しきれていないのが現実ではないでしょうか。
それゆえに、個人の住まいや生活に関する情報を扱う事業者には、より慎重な判断と配慮が求められるのだと思います。
今回の経験が、同じような悩みや不安を抱える方の参考になれば幸いです。
※本記事内の画像はイメージであり、実際に公開されていた動画や住宅とは関係ありません。